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ちゆう工房
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                    変身トコトコ (Transforming Ramp Walker)

「ウサギ」が坂をトコトコ歩いて降りていき、途中のターンテーブル(回転台)で向きを変え、「ペンギン」になり、坂をトコトコ降ります。他に「リス」は「アヒル」に、「ゾウ」は「トラ」に変身します。

なぜ?
どんなしくみで、「ウサギ」が「ペンギン」に変身するのだろうう。

                
しくみ

トコトコ歩く「ウサギ」は裏返すと「ペンギン」になるように作ってあります。坂をトコトコ降りてきた「ウサギ」はターンテーブルで裏返しになって、向きが変わり、「ペンギン」に変身します。

(1)変身トコトコ
①形態 
 図1                 図2



だまし絵で知られる「ウサギとアヒル」(図1)は、いわゆる多義図形で、耳と見るか 、くちばしと見るかでウサギに見えたり、アヒルに見えたりします。普通は、これが右方向に歩くと思ってみると、耳を持つウサギに、左方向に歩くと思うとくちばしをもつアヒルに見えます。変身トコトコではこれをヒントにして、どちらにもとれるような部分(多義部分)を体の前か後ろに入れています。ただ、歩く向きを変えても、後ろ向きに歩いていると思ってしまうと、変身しないで、後ろ向きの「ウサギ」に見えてしまうことがあります。
変身トコトコの歩く方向を変えるには、図2の①のように見える面がそのまま変わらないシーソー方式か、②のように回転により裏返って、裏側が見えるターンテーブル方式が考えられます。
ターンテーブル方式のように見える面が変われば、それぞれの面にその動物の絵柄を加えると、多義部分が違って見える面白さを残したまま、変身がはっきりします。
図3に実際の変身トコトコを示します。「ウサギ-ペンギン」ではウサギの耳とペンギンのくちばし、「リス-アヒル」ではリスの尾とアヒルの胸から頭、「ゾウ-クマ」ではゾウの鼻とトラの尾が多義部分で、その動物にあった絵柄を加えています。
 図3
  
②両方向歩き
よく見受けられる、一方向に歩くタイプのトコトコ人形は前脚を胴に固定し、その後ろ側に軸を介して動く後脚を付け、進む方向の前後に体が揺れると、固定脚の前脚を支点に可動脚を振り出すことで歩いていきます。また、重心は軸より後ろで、可動脚は軸より後ろに揺れるようになっています。
変身トコトコではターンテーブルで歩く向きが変わって変身するので、前向きにも、後ろ向きにも歩けるようにしています。
a.可動脚の前後に揺れの支点となる部分を設ける。
可動脚の前側と後ろ側に脚や体の一部を利用して、支点となる部分を設けます。
「ウサギ-ペンギン」と「リス-アヒル」では足と尻尾、「ゾウ-トラ」では足と鼻、尻尾をそれぞれ支点部分としています。
b.可動脚がほぼ同じように前後に揺れるようにする。
可動脚が前後に同じくらい振れるように、軸は前後の脚等のほぼ中間とし、重さのバランスも軸の前後で同じくらいにします。そして、これ等を基本として、可動脚とその前後の支点となる底面のカーブも含めて、両方向に歩くよう調整します。

(2)ターンテーブル(回転台)
変身トコトコの歩く方向を変えるため、ターンテーブルを利用しています。       図4
ここでのターンテーブル(図4)は言わば、坂の中ほどの一部を切り離し、斜めに回転するようにしたものです。                              上下の坂とターンテーブルを一直線状に接続すると、人形がターンテーブルに移っても、その重さによる回転力が働かないことと装置全体の安定感から、上と下の坂を180度より少し小さい交差角でターンテーブルにつなげ、ターンテーブルは停止棒でその角度だけ
回るようにしています。
変身トコトコが上の坂から、ターンテーブルに移ると、その重さで回転し、裏返しにな
り、向きが変わって下の坂に移ります。ターンテーブルは復帰用錘の重さで逆方向に回
り、元の初期位置に戻ります。
図5はターンテーブル部を簡略化して示したものです。回転軸は坂と同じ角度(θ)だけ傾いていて、「フリーの位置」は復帰用錘の重さで止まる位置で、ほぼ上下の坂と直線になる状態です。「初期位置」と「下端で止まる位置」は鈍角に交差する上、下の坂を接続したところです。
変身トコトコを載せたターンテーブルがフリーの位置から回転角αの位置にある時、変身トコトコの重さWによって軸方向の力W1=Wcosθ、軸と直角方向の力W2=(Wsinθ)cosα、回転軌道の接線方向の力W3=(Wsinθ)sinα が働きます。力のモーメントは W3×(変身トコトコの重心位置と軸との距離) で、ターンテーブルを回す主な回転力となります。
復帰用錘を含むターンテーブル自体にもその重さ(Wt)によって、同様の力が働きます。
図5


①ターンテーブルの回転
a.力のモーメント
変身トコトコが上の坂からターンテーブルに移り始めると、その重さによる力のモーメントが働いてすぐに回るので、ターンテーブルと坂に挟まれて止まってしまいます。このため軸の少し手前に押し板を設け、それにつながる棒が坂の溝に入るようにしたストッパーを付けました。人形が押し板を押すと棒が溝から外れ、ストッパーが解放されます。押し板の戻りには押しバネを使えばいいのですが、ごくわずかな力で働く柔らかいものが手に入らず、小さなネオジム磁石を使っています。
変身トコトコが押し板を押し、ストッパーが外れて回る時、変身トコトコ(重さW)による力のモーメントをMw、復帰用錘を含むターンテーブル自体(重さWt)の力のモーメントをMtとすると、
Mw=(Wsinθ)(sinα)×(変身トコトコの重心位置と軸との距離) 
Mt=(Wtsinθ)(sinα)×(ターンテーブル自体の重心位置と軸との距離) 
全体としての力のモーメントMは、M=Mw+Mtとなり、MwとMtは逆向きの回転力です。Mw>Mt ならばターンテーブルは回ることになります。
このことから、変身トコトコには復帰用錘の重さ等を加味して、相応の重さが必要で、錘を組み込んで重くしています。
b.軸と軸受との摩擦力
変身トコトコやターンテーブル自体の重さによって、回転軸は軸方向と軸と直角方向に力を受けます。これによる軸受との摩擦力でターンテーブルが回りにくくなるので、摩擦を少なくする工夫が必要です。
②ターンテーブル面の傾き
上下の坂を180°より少し小さい交差角でターンテーブルにつなげたため、変身トコトコが入る時と出るときのターンテーブルの上下方向の傾きが、坂の傾きよりやや緩くなりました。また、テーブル面は回るにつれて水平から手前側にも傾くので、軸を後ろ側に少し傾けて、この接続時に水平に近づくように調節しています。
③変身トコトコの歩き
変身トコトコが安定して、しっかりした歩きをしないと、ターンテーブル面の少しの傾きで止まったり、振られて倒れたりします。また向きを変えて降りるとき、早すぎると、下の坂のガイドに当たって止まり、遅すぎるとターンテーブルが回りだして下の坂との間に挟まることがあります。
坂道と足裏などのスリップを減らしたり、歩きが振れないでまっすぐ進むようにすることも欠かせません。作品「ウサギとカメのかけくらべ」でも触れていますのでご覧ください

上下の坂とターンテーブルを一直線状につなぐやりかたにすれば、変身トコトコが移った時に回転力は働かないので、ストッパーは不要ですが、代わりに変身トコトコの降りる力でターンテーブルを手前に少し振り出す等の工夫が必要です。こちらの方がシンプルで問題も少なかったかなとも思っています
こぼれ話
・ターンテーブルにはレコードの回転盤や車両の向きを変える大きな転車台等がありますが、工業用でも作業台として作業をしやすくしたり、搬送で物の方向を変えたり、移動するのに使われています。回転軸を傾けて斜面にすると、動力を使わずに運ぶものの重さで回転移動し、ものが離れるとひとりでに戻るようにできます。ここでのターンテーブルも同じ原理を利用しています。
・変身トコトコとして両方向に歩くようにするには、前述のように可動脚の前側と後側に支点となる部分が必要ですが、「ひと」のように立って二足歩行するものでは、片足だけで、もう一つの支点部分がうまく取れません。これが出来れば、バリエーションが広がるので今後の課題です。
・ターンテーブル式やシーソー式の方向転換部を坂道にいくつか組み込み、トコトコ人形をいろいろ変身させてみるのも、面白いと思っています。

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