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ちゆう工房
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                 角歯車と角穴ドリル 




 角歯車が1回りするうちにかみ合う歯車の速度が変わります。これによって振動音が変わったり、環状に配した振り子が開閉します。
 また、角形のドリル刃を回すと、その形に応じて角穴があくことをモデルで示します。
なぜ?
 どんなしくみで、角歯車は速度を変えることができ、角形ドリルは角穴をあけられるのだろう?
      
   
しくみ

角歯車モデル
 円形でない一対の歯車は、軸間の距離を一定に保ちながら、接触回転します。また、それぞれの周長の比は整数になります。接触点において駆動歯車の回転半径をr1、被動歯車の回転半径をr2 とすると、駆動歯車に対する被動歯車の回転速度の比(角速比)はr1/r2 になります。このことから、たとえば3角形の駆動歯車が等速で1回転すると被動歯車は3回、緩急に速度を変えて回ります。

 右側の歯車列のノブを回し、5角歯車を1回転させると、4角歯車は5/4回転、3角歯車は5/3回転、2角歯車(楕円歯車)は5/2回転します。このとき、5角歯車に対し4角歯車は1/4回転ごとにr1/r2 の角速比で、3角歯車は1/3回転ごとに(r1/r22 の角速比で、2角歯車は1/2回転ごとに(r1/r23 の角速比でそれぞれ速度が変わります。
 3角歯車と2角歯車では速度が変わることが見えますが、もう少し分りやすくするために、4角歯車に2角歯車で角速比を大きくして、サバーの歯輪を回すようにしました。速度の変化で、触れているカード紙の振動数が変わり、音が変わります。
 同様に3角歯車を介して環状に配した振り子を回すと、速度変化で遠心力が変わり、振り子が開閉します。3角歯車が1回まわるうちに振り子が3回開閉します。

角穴ドリルモデル
 「ルーローの3角形」のドリルで4角の穴をあけることは比較的知られています。では任意の角穴はどうすればあけられるのでしょうか?
 丸ドリルと違い、角穴をあけるにはドリル刃をどういう形状にするか、ドリルの中心はどういう軌跡をとるのか、そうしたズレ回転をさせるにはどのように駆動するのか、といった課題があります。
 これらについては佐藤郁郎氏が綿密に検討2)されており、その成果を使わさせていただきました。
 ドリル刃の形状はあける穴に内接しながら回転できる形(内転形)にする必要があります。ここでは3角穴には「ルーローの2角形」、4角穴には「ルーローの3角形」、5角穴には「ルーローの4角形」(佐藤氏考案)を使っています。「ルーローの2角形」と「ルーローの3角形」は内転形です。「ルーローの4角形」は擬内転形ですが、極めて内転形に近いとのことです。
 これらの頂角はあける穴のコーナーより大きいため、コーナーは完全には削りきれず少し丸くなります。内転形の2角形で「藤原・掛谷の2角形」いわれているものは頂角が60°なのできれいな3角形があけられます。

  ドリル刃が内転するとき、その中心はズレながら回転するため、駆動にはユニバーサルジョイント、内歯と外歯の歯車列、変形歯車などを介することが考えられていますが、ここでは簡易にプーリとベルトで駆動し、中間のプーリでズレ回転によるベルトのたるみを取るようにしています。
 ドリルとしてはあける穴状の枠をドリル軸の案内・軸受けとし、軸先にドリル刃を付けて穴をあけるのですが、ここでは穴と軸受けを兼ね、ドリル刃に相当するルーロー形が内転することを示すモデルとしています。
      
参考
1) 長岡歯車製作所「高精度特殊形状歯車ガイドブック」
2) 佐藤郁郎 「n角の穴をあけるドリル」 http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu.htm
こぼれ話
 3角や4角の歯車がかみ合って回るのは何かふしぎな気がします。しかし、これらの歯車の利点は形からくる面白さではなく、1回転するなかで回転速度が変えられることや確実に回転を伝えられることにあります。これによって機構を簡素に、小形化することができます。ただ、こうした歯車は設計や製作が難しく用途が限られていましたが、CAD/CAMの進歩で比較的容易に作れるようになり、応用の拡大が期待されています。
 非円形歯車に対応したCADソフトもあり、ここでも利用しましたが、歯車は手作りのため回りにくいこともあり、調整が必要でした。
 角穴あけで、偶数角形の穴が定幅で内転形の「奇数角のルーロー図形」のドリルであくのに加え、奇数角形の穴も「それらに類似した偶数角図形(非定幅)」のドリルを使ってあくので、2角形で3角穴、3角形で4角穴、4角形で5角穴、・・・・とn角形でn+1角形の穴があくことになります。これもおもしろいですね。
 身近なドリルでこれを実用化したものは見かけませんが、工業的には角穴加工の1つとして角形ドリル刃をズレ回転させたり、材料側をNC機構で動かして加工するものをYouTubeで見ることができます。角歯車も角穴あけも、コンピュータ数値制御による加工技術の進歩によって、実用されているのは興味深いですね。
 この作品は「2016青少年のための科学の祭典 東京大会」に出しました。小さい子にはちょっと分りにくかったようですが、高校生や大人の方には関心を持っていただきました。

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